東京レインボープライド 2023が、4月22、23日に開催され、過去最大の動員数を記録。ダイバーシティ、インクルージョンの機運が高まっているプライド月間だからこそ、あらゆる人に観てもらいたいLGBTQIA+に関わる優良なコンテンツを、ウォルト・ディズニー・カンパニーが有する各ブランドからピックアップしました。

まずは『Love, サイモン/17歳の告白』 (20世紀スタジオ) です。じつは、アメリカで公開されたときに賛否が割れました。ネガティブな意見の代表は「今さらこんな初歩的なカミングアウトストーリーを現代設定で?」というもの。これ、とても大事な意見です。物語そのものを否定するのではなく、「今さら?」と古臭く感じているだけ。でも、本当に古臭い話なんでしょうか?主人公のサイモンくんはインターネットネイティブ世代なので、ありとあらゆる情報をゲットできます。そんな彼でも、家族、学校社会でクローゼットでいなければ自分をキープできません。特に社会の最小単位である家族に否定されてしまったら、もう自分は生きる場所を失ってしまう。これがLGBTQIA+ユースにとって全世界共通の悩みですから、決して古臭い話ではありません。欧米都市部で暮らす当事者にとっては古臭く感じるのかもしれませんが、それ以外の場所で暮らす大多数の当事者にとっては「今」を描いた青春映画。それを頭の片隅においてご観賞ください。

次に『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』 (ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ) 。ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオにとって初めてゲイのキャラクターを主軸にしながらも当たり前に描いた革新的な新作です。注目は主人公のサーチャーと、息子でゲイのイーサンの関係性。イーサンの初恋相手の前で、サーチャーが「いいじゃん! 応援してるよ!」と言うシーン。サーチャーは息子の初恋相手が同性ということを、すんなり当たり前に受け入れていまするんです。このちょっとしたシーンだけでも、十分効果があるんです。特にディズニー・アニメーションだったら。というのも、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオの劇場用長編は、ファミリー向けの娯楽作であるとともに、教育素材としての意味も持ちます。ウォルト・ディズニー・カンパニーの各スタジオの中でも、本丸がこれをさらっとやってのけたことで、これからの映画界の流れが変わる予感がします。

レズビアンを描いた作品としては『デッドプール2』 (20世紀スタジオ) 。デッドプールの手助けをするX-MENのメンバーの一人として登場するネガソニック・ティーンエイジ・ウォーヘッドと、彼女のパートナー・ユキオの関係は、『ストレンジ・ワールド~』同様にこれまた当たり前なこととして描かれます。そもそも昔からマーベル・コミックのターゲットは男性や男の子。でも、マーベル・スタジオの成功に相まって、コミックの方でも「シー・ハルク」「ミズ・マーベル」など、時代にアジャストした作品を生み出しています。そんなときだからこそ、実写映画でも多様なセクシュアリティやジェンダーが描かれても不思議はありません。おまけに原作は、多様性にともない差別偏見のカウンターを早々に打ち出してきた「X-MEN」のユニバースですから。

トランスジェンダーについてもこちらでぜひ。LGBTQIA+のコンテンツを作らせたら天下一のライアン・マーフィーによるドラマシリーズ『POSE』 (20世紀スタジオ) 。トランスジェンダーがカルチャーの中心を作り出した歴史に目をつけたところが、ライアン・マーフィーらしいところ。1980年代後半から1990年代初頭にかけてのニューヨークのボールルームダンスシーンを描いたこの作品では、ご存知マドンナの「ヴォーグ」で知られるヴォーギング・ダンスが出てきます。ヴォーギングは、1970年代後半から1980年代初頭、LGBTQ+コミュニティ発祥のダンススタイルで、ランウェイ、ポージング、そしてアクロバットの要素を組み合わせて構成されています。これは、アフリカ系とラテン系のLGBTQIA+コミュニティで特に人気があり、自分たちのアイデンティティや表現を模索する場として、また自分たちの才能を認められる場として、重要な役割を果たしました。本作では、ハウスと呼ばれた迷えるトランスジェンダーたちのコミュニティが、ヴォーギングコンテストで競い合うさまを描いています。欧米のLGBTQ+のなかでも取り残されているといわれるトランスジェンダーの文化、歴史的な意義や影響力についても示唆する名作です。

そしてこちらはお勉強に。『ジェンダー革命』 (ナショナル ジオグラフィック) は、LGBTQIA+の中でも光の当たりにくいトランスジェンダー、クエスチョニング、インターセックスやセクシュアル・フルイド、ノンバイナリーの人たちに関するドキュメンタリー映画。「LGBT」と一言で言っても、さまざまなセクシュアリティがあり、しかもそのどれもが個々それぞれに抱える問題や課題があるもの。カテゴライズのように一言で片付けられるようなものではありませんし、当事者の間でも意見が分かれることはしばしばあります。だからこそ、この作品は素晴らしい。それは「分からないことは分からないから聞く」という姿勢のインタビューで構成されているから。これによって、視聴者はインタビュアーと同じ目線で当事者の声を聞くことができます。たとえば、トランスジェンダーひとつとっても、世代間で考え方が全く違うことが分かったり、インターセックスで生まれた子が親と医者の勝手な選択によってどちらかの性に決めつけられていた時代があったことなど、本当に目からウロコの連続ですよ。