
私は野生生物が増え環境が復活した場所、グッド・ストーリーに焦点をあてています。
「野生動物を撮影していると、通常行われている営みが狂い始め、それが環境に大きな影響を与えていることに気づきます。私たち人間が行うことすべてに結果が伴うことを理解しなければなりません。人間の営みも、健全な環境の中でしか存続できない。だから、保護していくことが重要だと思っています」
実際に、気候変動を肌で感じているという彼に、この10年で感じた大きな変化についても聞きました。
「ナショナル ジオグラフィックの仕事で、カナダ北極圏のセントローレンス湾でタテゴトアザラシを撮影していたときのことです。母アザラシは氷の上で子供を育てるのですが、温暖化により、通常は子供が生後数週間を過ごす氷が割れるのが年々早まっているのです。すると、プラットフォームが確保できなくなり、多くの子アザラシが死んでしまいます。気候変動により生物学的にとても複雑な影響がたくさん出ていますが、これは私が観た、最もショッキングな影響でした」
気候変動により自然環境が失われ、生態系も失われています。それでも、バーティ氏が番組で強調しているのは、素晴らしい自然と、“COME BACK”した環境です。
「人間が自然界に対して行っていることは、とても悲しく憂鬱で、恐ろしいことです。ただ、自然は自らを治癒するのがとても上手です。でも、それは私たちの手に委ねられていると言えるでしょう。だから私は、野生動物が増え、それにより環境が復活した場所、そしてグッド・ストーリーに焦点を当てることにしています」
バーティ氏の話を聞き、参加したメディアからは、人間も生物多様性の中の一部であると考え、自然と繋がっていることをもっと感じられる体験が必要だと感じたという意見も。
「私たちは自然の一部です。私たちと自然を切り離して考えるのは間違っているでしょうね。自然環境は、私たちが当たり前のように享受している多くのものを与えてくれます。新鮮な空気、きれいな水、生産性の高い土壌。もし事態を好転させなければ、私たちは非常に大きな問題に直面することになるでしょう。だから、自然界と私たちを再び結びつけることが重要だと思うのです。今日のプレゼンテーションでは、街中で生きる野生動物がとても素晴らしいと話しました。どこに住んでいても、外に出て自然を見つけ、繋がることはできる。自然界と繋がること、それは自然にとっても、私たちにとっても良いことだと思います」
素晴らしいカムバック・ストーリーズのような物語の力によって、希望を持ち、状況を改善するために皆で行っていく取り組みにぜひ参加して欲しいと思います。
ここで、マリア氏に日本のエクスプローラーについての質問がありました。
「およそ15名ほどいるのですが、そのうちの6名ほどが、ナショナル ジオグラフィックのアースデイ・イベントに参加してくれました。ナショナル ジオグラフィック協会は科学、自然保護、ストーリーテリング、教育、テクノロジーの分野に取り組む人々に資金や技術を提供しています。もちろん重なる部分はありますが、素晴らしいところは、誰でも応募できることです。人生のどの段階からでも、どのようなキャリアを持っていても応募できるのです。私たちはエクスプローラー (探求者) を常に募集しています。ナショナル ジオグラフィックでのネットワークや学びを積極的に支援し、最先端のツール、テクノロジー、トレーニングで力を与え、ストーリーテリングを通じて私たちの影響力と認知度をさらに高めてくれることを願っています。そして、気候危機に怯える人々を疎外するのではなく、素晴らしいカムバック・ストーリーズのような物語の力によって、希望を持ち、事態を改善するために皆で行っていく取り組みに多くの人にぜひ参加して欲しいと思います」
実は、最近になって、日本にもサメの大群が生息している場所があることを知りました。神子元島 (みこもとじま) です。間違いなく、私が潜りたい場所のリストのトップ候補ですね。
今後潜っていたい場所3か所を教えてほしいという質問について、「実は、最近になって、日本にもサメの大群が生息している場所があることを知りました。神子元島 (みこもとじま) です。間違いなく、私が潜りたい場所のリストのトップ候補ですね。日本では、シュモクザメの大群がまだここに生息している事実を誇りに思って欲しいと思います。それにしても、本当に難しい質問ですね。世界各国から選べるのですから。ロックダウンの間、私は自分の住んでいる場所の海を探検し始めました。プロとして今まであまりやったことがなかったのですが、スコットランドの西海岸沖でウバザメの大きな群れを撮影しました。長い巨大魚で、スコットランドはこの巨大魚を見るのに世界で最高の場所。そのような場所に自分が住んでいることがわかり、本当に興奮しました。ですから、ウバザメともっと多くの時間を過ごしたいです。そして3位ですが、私は寒いところが好きなんです。ですから、北極や南極でもっと時間を過ごし、クールな動物を見たいと思っています。厳しい場所ですがそんな場所こそ、まだ見ぬものを見られます。」
若者たちが自分には力があると感じてもらうことが大切だと思っています。
気候変動に対し、若い方に自分事とらえてもらうには?という問いには、マリア氏が答えます。
「これには2つの答えがあります。まず、若い人たちが気候変動問題を、身近に感じられる、例えば週末に横浜で行われたイベントのようにアートや音楽などを通して実際に体験できるような状況を作ることです。実際に楽しみながら今置かれている状況をポジティブな物語を通して理解することができます。ワークショップも開催し、子供たちに紙芝居や、海洋プラスチックでのキーホルダー作りを通して、楽しく学びながら海の問題を体験してもらいました。若者にとって、『自分にもできることがある』という実感は、重要なことだと思います。人口の3%が一緒に行動を起こせば、実際に変化を起こすムーブメントを生み出せると言われています。若い人に、自分は変化を起こすことができると伝えたいです。来日したもうひとりのエクスプローラーである海洋生物学者のアーシャ・デ・ボスは、自分が聞いた話から何を学んだかを誰かに話して欲しいと話していましたが、1つの情報を誰かに共有するだけでもいいんです。そうやって、若者たちが自分には力があると感じてもらうことが大切だと思っています」
作品作りで心がけていること
そして、バーティ氏が「物語をエンターテイメントにすることと、重要な情報を多く伝えることのバランスは、私たちが常に心がけていることです」と続けます。「僕の番組が、エキサイティングで楽しくて、一緒に冒険に出かけられると視聴者に感じていただけるのであれば嬉しいです。それと同時に、動物たちが直面している環境問題について、また、私たちがこの状況を好転させることができる可能性についても、知ってもらえたらと思います。また、そのために私たちが個人としてできることは何なのかも知ってもらいたいですね。」
『Planet Possible (ディズニー・プラネット・ポッシブル) 』は、私たちが人々に環境問題に取り組んでもらうための方法なのです。
最後に、ナショナル ジオグラフィックのコアバリューに関する質問が出されました。
「数年前、私たちは『Planet or Plastic』というプラットフォームを作りました。コロナのすぐ前です。グローバルで、プラスチックのゴミについて考える人々のためのものでした。ところがパンデミックが起こり、多くのプラスチックが医療用にも使われているのに、プラスチックだけに焦点を当てるのは、視点が限定的だと感じたのです。そこで『Planet Possible (プラネット・ポッシブル) 』というプラットフォームが生まれました。ひとつの問題にフォーカスするのではなく、地球を守るために、消費者のライフスタイルに関して、私たちの未来のために何ができるか一緒に学ぼうというもの。例えば、どういう食事をし、どう服を買うかといったベーシックなことを、地球を守るという環境の視点から考えようというものです。知らなかったことを学び、何ができるか考え、興味や関心を持ち、一緒に何ができるかをもっと知ろうという取り組みです。例えば、エクスプローラーの中には、生物多様性について一般の方が身近なところで学べるように取り組んでいる者もいます。コロナ禍の中でも、多くの同僚たちが、身近な場所の生物多様性について話す機会を持ちました。ロックダウン中に子供たちが多様性について遊べるキットを作ったエクスプローラーもいます。このように、さまざまなアプローチ方法があります。『Planet Possible (プラネット・ポッシブル) 』は、私たちが人々に環境問題に取り組んでもらうための方法のひとつなのです。