スピードがすべての世界において、第一線で活躍し続けるのはどんなに難しいことだろう…
    今回の『カーズ/クロスロード』は、最新のテクノロジーを追求した若いライバルが台頭し、
    主人公ライトニング・マックィーンがクロスロード(人生の岐路)に立つストーリー。

    モータースポーツ界を代表し、片山 右京さんと小林 可夢偉さんに映画の感想をうかがいました。
    先輩・後輩という関係で普段から交流があり、「スパ・フランコルシャン24時間レース」では監督とレーサーの間柄になるおふたり。
    片山さんはレーサーを引退された立場から、そして小林さんは現役で走り続ける立場から、それぞれ本作はどのように映ったのでしょう。

    また、小林さんには先日終えたばかりの「ル・マン24時間レース」についてもお話いただきました!
    映画を介し、おふたりのレーサーとして、人間としての素顔に迫ります。

    ーー 『カーズ/クロスロード』をご覧になり、いかがでしたか?

    小林 可夢偉(以下、小林)今まで観た車映画で、こんなにリアルなのは今作が初めてです。
    主人公のライトニング・マックィーンがやっているシミュレーターを使ったトレーニングなんて、
    まさに僕らが最先端技術を使ってしていることなんですよね。
    ヤングの時は3日間シミュレーターにこもりっぱなし、携帯の電波も入らない。
    映像を見て車の設定とかを考えるから頭が疲れるんですよ。
    映画でもライトニング・マックィーンが「シミュレーターはやりたくない、実車で走るんだ」と言っていて、
    僕はもうヤングではないので拒めますが、彼の気持ちは分かります(笑)。リアルでしたね。

    片山 右京(以下、片山)エンジン音や動きも良くできていてね。
    動きを見ると、ちょっとサスペンションが柔らかいんじゃないか、
    内圧低いんじゃないかとか、そういうことを気にさせるリアリティがある。
    ストーリーに感情移入している時でも、映画のクラッシュシーンは結局なにが原因だったんだろう、
    タイヤのパンクなのか、サスペンションなのか、とか考えちゃうよね(笑)。

    小林僕も観ながら考えました(笑)。
    基本的に車の形はアメリカのNASCARをベースにしていて、レース中の通信の内容も本場に近いですよね。
    あそこが空いているだとか、ここに気をつけろとか。

    ※NASCARとは、アメリカにおけるモータースポーツでナンバー1の認可団体で、
    この団体が統括するストックカー・レースの総称。

    片山今作にも登場するけど、ライトニング・マックィーンの師匠ドック・ハドソンの声って、
    ポール・ニューマンだって知ってた?

    小林え、マジですか!?

    片山鳥肌立つよね。ポール・ニューマンはカーズ第1作にドック・ハドソン役で声優出演したんだけど、
    もう亡くなってしまっていて。
    第1作の収録時に録っておいた音声を集めて、使っているんだって。
    第1作からスタッフをしていたブライアン・フィー監督も、それだけ彼をリスペクトしていたっていうことだよね。
    ドライバーは引退したら忘れられちゃうことが多いけど、カーズのなかではそうじゃない。
    生きていくから、羨ましいなあって思ったよ。そういう人間でありたいよね。声を残してもらえるくらいさ。


    ーー 自分と違うなと感じたシーンはありますか?

    小林ライトニング・マックィーンがレース前、
    「I am speed…」って唱えて精神統一していたんですけど、
    僕はだいたい「落ち着け、無駄に考えるな」って自分に言い聞かせます。

    片山え、意外だなあ!僕も同じなんだよ。
    普通だったら、ライトニング・マックィーンみたいに自分を鼓舞する感じがするじゃん。
    でもそうじゃなくて「落ち着け落ち着け、何度もやってきた」って言い聞かせる。
    怖くて、ハンドルが太く感じたり神経がおかしくなっちゃったりすることもあるから。
    多分ドライバーってみんな臆病なんだよね(笑)。

    小林そうだと思います。僕の最良の仕事って、車の限界があるなかで状況を見極めて、
    自分でこれがギリギリだなっていうところを詰められるだけ詰めることだと考えていて。
    でも感情が入りすぎると、遅れて、焦って、失敗するパターンが多いから、
    常に落ち着けっていうのを心がけていますね。

    片山僕は目の前で事故も見てきて全部覚えている怖さもあるし、
    貧乏だったときもあるから、負けたらクビになるかもしれない、サバイバルしなくちゃいけない、
    そんないろんなプレッシャーで緊張して弱気になったりするんだよね。
    自分を鼓舞しなくちゃいけない。でも「何度もやってきたんだ」って自分に言い聞かせてあげる。
    こんなの負けない、チャンピオンを取ろうって。
    そんな心境を思い出させるくらい、ドキッとさせる場面がいっぱいある映画だね。

    小林そういう意味では車に詳しい方が観て楽しめるのはもちろん、
    描写がリアルなので、レーサーってこんな感じなのかっていう発見もあるかも。
    最新のテクノロジーを込めた車にどうやって勝つのか聞いたら、
    本作でマックィーンを指導する元レーサー・スモーキーが「経験だよ」って。まさにそうなんですよ。

    片山第1作では生意気で元気で速かったライトニング・マックィーンが、
    ダートでタイヤの使い方を覚えて経験積んでいく感じね。
    映画はファンタジーだけど、実車で人が演じたら単純な本物のレース。すごい忠実だってわかると思うな。

    ーー ストーリーはいかがでしたでしょうか

    小林僕この話の展開が読めなかったんですよね。
    途中「ダメダメダメ!このままじゃ負けちゃうよ」って思ったり、
    「分かる分かる分かる!」って共感したりして、最後は納得して。

    片山レースだけじゃない物語で、誰も予想できないようなきれいなラストだよね。
    若くて最新の車が台頭してきて、ライトニング・マックィーンはクロスロードに立って…
    なんだか自分もいろいろ思い出して、突きつけられるものがあったり。
    F1を引退してから20年も経つし、そのあとはル・マンとかで世界の頂点を目標にしてさ。
    夢は果たせなかったけど、でもやっぱり後輩たちが同じル・マンで「勝つ!」って頑張っているから、
    こっちは安心して成仏できるんだなって(笑)。

    小林いやいや、成仏はしないでください(笑)。
    細部は違うけど、インスピレーションとしてシューマッハからベッテルっていう流れを意識していたんじゃないかな。
    あのふたりってこんな感じやったんかなって思い浮かべながら観ました。

    片山僕はちょっと世代が上だから、セナが出てきてシューマッハに代わるところが同じように浮かんで。
    その後にベッテルや今のドライバーたちが出てくる。
    そういう世代交代は当たり前のことで、時間が経ってみれば状況を受け入れるのは自然なことなんだろうけど、
    若い世代が台頭してきたときの自分のモヤモヤを言語化して整理がつくようになるまでが、
    映画では視覚化されて整理されていた。
    今まで自分がしてきた選択は間違っていない、時間の流れなんだって教えてくれた気がするな。

    小林ドライバーのことをよくわかっているなって思いますね。
    ドライバーはやっぱり走れる瞬間が一番楽しいから、そんな簡単にやめたくない。
    ライトニング・マックィーンの「走れればお金なんか要らない」っていう台詞はまさに、
    結構ドライバー心理をついているなって。

    片山でもね、本当に、本当に引退するとか、
    辞めるって線を引く感覚は、可夢偉にはまだわかんないと思うよ。僕もわかんなかったの。
    ただ、ル・マンの可夢偉の走りを見て「線引かれた…」って現実的に実感したね。
    イベントのレースで可夢偉に勝ったりして「まだまだいける!」みたいな気持ちが心のどこかにあったんだろうけど、
    とどめを刺された感じだよ。

    小林いや、でもこの間一緒に走ってびっくりしましたよ。右京さんはやっぱ違うなって。
    日頃乗ってる車じゃないので慣れないんですけど、右京さんはいきなりアクセル全開ですからね。
    違うなこの人〜と思いました(笑)。

    片山僕はもう過去の人で、現役が気を使ってくれたところもあったりするんだろうなって思うよ(笑)。
    だから、マックィーンが言っていた「引退は自分が決める」って言葉は、結構重いよね。
    自分で引退を決めることができるレーシングドライバーってあんまりいなくて、
    だいたい消えていくんだもん。何人もできることじゃない。

    ーー 小林さんは先日ル・マンを終えたばかりです。
    悔しい結果となってしまいましたが感想をうかがえますか?


    小林90年の歴史あるル・マンのなかで、今回は歴代で一番早く1周を走ったんです。
    それは正直うれしいし、コンマ何秒の世界を争っているんで、
    今まであったコースレコードを2秒も縮めたのはびっくりしました。
    我ながら名誉です。YouTubeでは5日間で37万回と、勢いよく再生回数が上がっていて…

    片山そのうちの37回は「すっげえなあー!」って思いながら僕が観たね(笑)。
    コーナーなんて「おいおいおい、こんなスピードで入っていくのかよ!危ねえなあ(笑)!」って。
    でも僕が部外者だから言えるのは、もうあれだけ速く走れることや、
    6時間走れることも証明できているから、24時間走るのにあそこまで攻める必要はないだろうなってこと。

    小林そうですよね、でもドライバーだから速く走るのが楽しいんですよ(笑)。
    悔しいですけど負けは負けなので、それを素直に受け止めて、
    負けが決まった瞬間から次こそは勝てる準備をしないといけない。
    実際にもう動いていて、昨日も夜中の2時頃にチームで電話して
    今後どう作っていくかって話しました。正直もう来年に向かっています。


    ーー チームやライバルの存在は大きいものですか?

    小林一緒に戦っているからダメな時はダメで3人で落ち込んだりするけど、
    でも3人で協力してチームを作っていきますね。
    最大限に言葉を選んで、いかにチームに自分の気持ちを伝えるか考えられるようになったうえで、
    初めてチームワークが生まれるんだと思います。

    片山チームメイトにはもちろん支えられていたし、
    一番ライバルだったヤツがありがたい存在になることもあるよね。
    たとえば鈴木亜久里さんはF1の先輩で、ライバルでもあったから喧嘩になったりしてたけど、
    今はふざけて笑い合える仲なんです。
    年を取って立場が変わったから、お互いのやってきたことをリスペクトし合えるんだね。
    でも現役はまだ、そういうところもとんがってとんがってなくちゃ。
    じゃないと、世界最速のタイムなんて出ないからね。

    ーー お二人の目標は?

    小林これからもレースで活躍して、車好きを増やし、
    ちょっとでも日本でモータースポーツの楽しさが広まるといいなと思います。
    こどもが「あんな車乗りたいから仕事頑張ろう」とか思うきっかけになりたいですよね。

    片山僕も目標はハッキリしてて、ハンドルを握らずに戦うことです。
    僕はドライバーとして、心のなかでは引退してなかったの。
    だけど、自分のやるべきことはそうじゃなくて、みんなの走る環境、力を発揮できる環境を考えて応援する。
    本当の意味で集中して若いヤツを育てて、絶対にもう一回車も自転車も一緒に世界一を取りたい。
    そのことにいつ気がついたかって、実は一昨日くらいなんだよね(笑)。
    映画を観て泣けてきちゃったのが、僕わかってるようでわかってなかったんだよ、
    どっかでまだできると思ってたんだよね。周りはまだ走れるって気を使ってくれるけど、それではダメ。
    大切なのは、ポジティブに他のところに注力すること。
    メーターが言った「限界は誰が決めるんだ」っていい言葉だよね。
    自分のなかで自分を信じていくつになっても頑張るっていうのは、岐路に立った時に忘れちゃいけないこと。
    大きなテーマの映画だと思うよ。

    ーー これから映画を観る方へ、コメントをお願いします。

    小林登場人物がみんな車っていうファンタジーの世界なんですけど、
    実際はレースのリアルを追求した、「人」の映画だと僕は個人的に思いました。
    ファンタジーだと思って観ると、びっくりしますよ!

    片山単純な娯楽映画を超えて深い人生の映画になっているので、
    皆それぞれ刺さる部分や感じる部分は違うだろうね。
    僕と可夢偉でも、立場が違うから受け止め方も違ったわけだし。

    小林自分が主人公じゃなく誰かを応援している方も、 その応援にやりがいを感じられるようになるかも。

    片山そうだね。どんな仕事をしている方が観ても、 どんな立場の方が観ても、
    自分の人生にオーバーラップしてくる部分はあると思う。
    そういう意味でも、「カーズ」ファンの子どもたち、車好きな方、すべての大人たちに観て欲しいです!

PROFILE

    片山 右京

    元F1レーサー。登山家、自転車競技選手である。
    通称「カミカゼ・ウキョウ」。神奈川県相模原市の終身名誉観光親善大使、社団法人グッド・チャリズム宣言プロジェクトリーダーを務める。
    UCI自転車ロードレースチーム「TeamUKYO」の代表も務める。

    小林 可夢偉

    レーシングドライバー。世界耐久選手権(WEC)ではTOYOTA GAZOO Racingに所属。
    サルト・サーキットにおけるコースレコード所持者でもある。F1をはじめ国内外問わず数々のレースで表彰台に上がる。
    2017年のル・マン(WEC)では、3分14秒791という従来のコースレコードを約2秒上回る驚異的なタイムでポールポジションを獲得。