1.今こそ求められる「アリスの勇気」

「アリス」はいつの時代、誰の心の中にもある「課題」とその「克服」を描いた物語です。原作者のルイス・キャロルが「アリス」を書いた当時のイギリスは、産業革命を経て科学技術が発展した時代。運命や自然に負けずに人生を切り開いていくのだという希望が世の中に満ちていました。勇気ある「アリス」の物語はそこにピタリとはまったのでしょう。
そして、何事にも怖れる事なく前に進むアリスの強さと勇気は、先が見えない不安が渦巻く今の時代においても求められています。

2.ワンダーランドはアリスの心の中

ワンダーランドはアリスの心の中だという解釈があります。つまりアリスの不安や悩みを投影した世界です。とくに映画はその面を強調して描かれています。 前作は、自分が何者だかわからないアリスが怖い経験をしながらも負けずにそれに立ち向かい、自分を見つけていく物語。
本作は、過去の思い出にとらわれたアリスが「過去は変えられないが、そこから学ぶことができる」ことに気づき、大人の女性へと脱皮していく物語。

どちらもアリスが現実社会で突きつけられている課題を乗り越えるうえで大切なことをワンダーランドで学び、成長していくというストーリーです。

3.チェシャ猫も赤の女王もアリスの分身?

ワンダーランドがアリスの心の中だとすれば、個性豊かで摩訶不思議なキャラクターたちは、それぞれアリスの分身です。
アリスには、赤の女王のように子どもっぽく頑固な面や白の女王のように純粋無垢な面、ハッターのように悩み深い面、アブソレムのように賢者の面もあります。
そんなキャラクターたちと過ごしながら、アリスは自分自身を深く知ることで、様々な困難や問題に対処する方法を身につけていくのです。

さて、あなたの分身は? ワンダーランドの中で見つかるでしょうか?!

4.アリスに思わず共感する理由

ファンタジーの代名詞のような「アリス」シリーズですが、アリス本人はいつも極めて現実的な問題に直面しています。
前作では、意に沿わないヘイミッシュとの結婚話。アリスの決断で破談になったものの、本作ではヘイミッシュに大切な船を奪われようとしています。この船=ワンダー号は最愛の父の形見であると同時に、彼女が情熱を傾けるかけがえのない仕事の場でもあります。
恋愛のトラブルや仕事のストレスなど、あまりに身近なアリスの悩みには誰しも共感。そして、絶体絶命の危機になると、アリスは運命に導かれるように、再びワンダーランドへ──。

5.なぜ〈鏡〉からワンダーランドへ

前作ではウサギの穴だったワンダーランドの入り口は、本作では〈鏡〉です。鏡の世界は現実の世界の逆転であるという世界観の現れで、時間を遡るアリスの冒険を象徴するかのように、鏡に映る時計は逆回りしています。
そして何より、鏡は自分自身を映し出します。少女から大人に成長することで、これまでのアイデンティティが揺らぎ始めたアリスは、新たなる一歩を踏み出すために、本当の自分と向き合うことが必要だったのです。

6.不可能を可能にする魔法

今は亡き最愛の父から、不可能を可能にする「秘訣」を受け継いだアリス。それは、「信じる」こと。どんな困難にも決して負けないアリスだからこそ、ワンダーランドの仲間たちは、マッドハッターの危機に「救世主」としてアリスを待ち望むのです。
しかし、本作でアリスは、死んでしまった家族を取り戻したいというハッターの願いに「不可能よ」と答えてしまい、ハッターから「アリスなら僕を信じてくれるはずだ」「君はアリスじゃない」と宣言されてしまいます。それは、大人になったアリスが、アリスであり続けるかどうかを決めるターニング・ポイント。ここから、彼女の本当の冒険が始まります。

7.時間は敵?それとも…

本作は、時を操る番人・タイムとの戦いが大きなテーマ。愛する父の死によって、アリスは時を「泥棒」であり、敵であるとみなします。しかし、マッドハッターを救うために時間を遡る旅に出たことで、時間は「奪う」だけでなく、多くのものを「与える」ことに気づきます。
父の時間は永遠に奪われてしまったけれど、父と過ごしたかけがえのない時間もまた、彼女の中では永遠に大切な宝物。過去にとらわれるのではなく、未来に歩き出す決意をしたアリスの潔さは、現代を生きるすべての人へのエールになるでしょう。

トリビア 【赤の女王と白の女王の秘密】

「誰からも愛されなかった」過去にとらわれて暴君と化した赤の女王。振り返りたくない過去を胸に秘め、過剰なまでに「いい子」を演じている白の女王。姉妹の人生を変えてしまった「決定的な過去」が、本作でついに暴かれます。どちらの気持ちもわかるだけに、なんだか切ない…。

トリビア 【白の女王を演じたアン・ハサウェイはシェイクスピアの妻と同じ名前】

マザーグースやシェイクスピアなど英米文学の知識があちこちにちりばめられている「アリス」。シェイクスピアの妻の名前が、実はアン・ハサウェイだったとは!不思議な縁を感じる?!


監修

英文学者・東京大学大学院教授

河合 祥一郎さん

『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』
(角川文庫)翻訳者

「アリス」の世界には、「いまを懸命に生きる」ためのヒントがまだまだ隠されています。これから映画をご覧になる方も、すでに映画をご覧になった方も、もっともっとディープなワンダーランドを探索してください。それは、あなたを再発見する≪時間の旅≫のはじまりです。

企画制作:朝日新聞社

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